Work Text:
短く吸った自分の息の音に、意識が覚醒する。
ぐらぐらと揺れるような歓声がディン・ジャリンの頭上を埋めつくしていた。
ほとんど無意識にヘルメットを剥ぎ取られてはいないことを確かめて、よろめきながら立ち上がる。身体を覆うアーマーにも欠けたものはないようだった。
フライトスーツは無かったが、ハイネックのインナーは元のまま着せられている。いつの間にか嵌められていたらしい首輪は不快だったが、他に拘束するようなものは無い。身体のどこも痛む箇所は無かった。
意識を失っていた間何も無かったらしいことに小さく息を零す。
手首や足首が問題なく動くことを確認しながら、行動の意図の読めなさに眉を顰めた。
細かな言葉を聞き取ることの出来ないほど興奮した歓声が煩く響く。ぐらぐらと反響する音に頭が痛んだ。碌に頭が回らないのは不覚にも捕まってからいくらか経つからなのかもしれない。ずっと狭いところに押し込められていたから感覚は鈍っていたが、おそらくディンが捕らえられてから半月は経っているはずだった。
それにしてもこんなところに引きずり出されるとは、といっそう顔を顰める。よく見えなかったが、放り込まれていた場所はコロシアムのようになっているようだった。
少し前にロッタと共に戦った場所に似ているような、さらに暗く重い気配のするような空間を見渡す。捕らえられてからおよそ半月、〝遊ばれて〟ばかりいたから目的が分からず不快だったが、この場に引きずり出すための準備期間だったのだと思えば説明はつく。依頼を装ってディンを誘き寄せた男は、おそらくは見世物や賭け事の元締めなのだろう。わざわざアーマーやインナーを着せたのもそのためである可能性が高かった。戦いの場にお遊びとして引きずり出されたマンダロリアンに人を熱狂させるような価値があることは残念ながら身をもって知ってしまっている。何らかの生物と戦わせるために捕まえたのだとしたらあの悪趣味な時間は必要なかったんじゃないかと思いはするものの、おそらくは集客のために空いた時間の手慰みだったのだろう。それならば傷ひとつつけられないまま、ベスカーアーマーを剥ぎ取られもしないまま放置されていたことにも説明がついた。
どんな相手と戦わせるつもりなんだと円形の闘技場を見渡す。観客たちはどうやら二階席から見下ろす形になっているようだった。ぼんやりと橙の光が心許なくディンのいる階下を照らしている。下からは上の観客たちの姿のシルエットしか捉えられないのは、シャカリでの騒ぎを知っているからなのかもしれない。余計なことをと後ずさりしながら頭を傾けると、半透明の膜の向こうで歓声が大きくなった。笑うような声が不快で悪態を吐く。向こうからはディンの動きが見えているようだった。
囚われている間無意味に遊ばれていた影響か、指先に僅かに残る痺れを感じながら睨むように頭上に顔を向ける。ゆらゆらと揺れる複数の影はこちらを指さしているように見えた。
「っ、」
ぐわん、とひと際大きく響いた音に顔を顰める。仕切るような声はくぐもってよく聞き取れなかったが、このタイミングで流れる音声なんて碌なものではないだろう。何か紹介するように続けられた声に湧き立つような音が聞こえる。興奮を煽るようなアナウンスは、拘束具のひとつもなく放り込まれたディンと、未だ姿の見えない勝負相手について紹介しているようだった。
生憎ディンにはひとつも負けてやる気は無い。武器は全て取り上げられてしまっているが、それは負けてやる理由にはならない。どんな相手が来ようと絞め殺してやる気で目を眇めて――ず、と姿を現した生物に息を詰めた。
円形の壁から這い出るように現れたのは、ディンもよく知っている生物だった。不定形の身体が土の床をのろのろと這っている。伸びたり縮んだりする粘液塗れのそれは、所謂スライムと呼ばれる厄介な生きものだった。
ず、ず、と重たげな動きと共に水分を孕んだ身体が顕になる。本来透明であるはずのぶよぶよの身体はキツいピンク色に染められていた。それでも尚半透明の身体は薄暗いリングの壁を悪趣味に染めて見せている。蠢く身体の向こうに透けた景色に嫌な予感がして、ディンはひっそりと眉を顰めた。
頭上から聞こえた声が合図だったらしかった。
びり、と首輪が僅かな電流を発する。突っ立っていないで戦えという意図を感じて半透明の膜の向こうを睨みつけた。
甘いにおいが充満し始めている。
腹の底を疼かせるようなにおいと、脚を震わせるような痺れにまたひとつ悪態を吐いた。
あの子を連れてこなくて本当に良かった。運良く――あるいは、運悪く――ディンが受けた依頼先は淫蕩の気配に満ちた場所だったから、今回ばかりはとグローグーには留守番を頼んでいた。多少の荒事であれば問題なかったが、ああいった場所はまだはやい。あちこちから嬌声の聞こえた依頼先の建物に入った時にもそう思って――そして囚われていた間何度も、今だって似たようなことを思っていた。
ずる、とスライムが蠢く度に甘いにおいが底に溜まっていく。濃縮された濃いにおいには色がついているようにすら見えた。足元から這い登る重いガスのようなにおいに後ずさる。それがどんな効果をもたらすのかを、ディンはよく知っていた。
「――――!」
後ずさろうとして、走った電流にぶるぶると太腿が震える。痛みよりも甘さの残る痺れに膝をついた。半月もの間遊ばれきった身体がにおいに反応している。それがどんな効果を孕んでいるのかを覚え込まされた反応はまるでよく躾られた犬のようだった。
ディンよりも大きなスライムは決して俊敏ではない。殴っても切ってもダメージを負わせられない反面、動きは嫌味なほど鈍かった。普段なら容易く避けられる半透明の塊がディンの足元へと這い寄る。咄嗟に払おうとした腕は、粘着性の高い液体のような身体にあっさりと飲み込まれてしまっていた。
どろどろのスライムに飲み込まれた左手を咄嗟に引き、右手で拳を作って殴りつける。不快なほどやわらかな感触がディンの指先を包み込んだ。ひんやりと冷たい不定形のゲルが気持ち悪く指の間に潜り込む。やんわりとディンの指を包み込んだスライムは、べたべたとぬるつく体液を滴らせるとグローブの下へと先を潜り込ませ始めた。
「やめ、ろ、……っ!」
零れた声に頭上で歓声が上がる。喜ばせるような言動をしてしまったことが気に入らなくてヘルメットの下で顔を顰めた。振り払おうとした手にスライムが纏わりつく。まるで指でも絡めるようにグローブの下で蠢いたスライムは、やがてぶるぶると身体を震わせると本領を発揮し始めた。
趣味の悪いピンクが斑になったゲル状の塊が、ずる、とグローブを滑り落とさせる。指先を守っていたものに呆気なく穴が空いていた。手首に纏わりついたスライムの下に素肌が見えている。グローブの素材よりも布の方が分解されやすいのか、アーマーの下に着せられていたインナーが手首の方からじわじわと溶け始めていた。
目を見開き、慌てて腕を引き抜いた反動で尻をつく。碌に食事も与えられていなかったのが影響しているのか、それともこのにおいのせいか、いやに力が入らなかった。震える指を握り込む。顕になった手首にべっとりとスライムの体液が張り付いていた。人体を溶かしはしないことをディンはよく知っている。甘ったるいにおいと共にぶるぶると揺さぶられた透明の身体は、この半月の間最もディンのそばにあったものだった。
捕まった当初、てっきりディンは相手がただの悪趣味な男だと思っていた。残念ながらそういった輩は少なくはない。今までにも『いくらだ?』と聞かれたり仕事と偽って呼び出されたりすることはあったし、似たような危機的状況に陥ったことも初めてでもなかった。その度に焼け野原にして帰ることが出来ていたから尻自体は無事だったが、今回ばかりはそうもいかなかった。
ディンを捉えた男が真っ先にしたことは、ヘルメット以外の全ての衣服やアーマーを剥ぎ取ることだった。そもそもディン自身はおまけのようなものでベスカーが狙いだったのだろうから、それも当然の流れだろう。ディンは今までの『いくらだ?』も本命はベスカーだろうと考えていたから、剥かれたところでたじろぎはしなかった。
問題はその後だった。もしも向こうから近付いて来たら首をねじ切ってやると思っていたディンに、男はおかしそうに笑った。曰く、『俺は運が良かったな』。続けられた『まさかはじめてだなんて』という言葉の意味まではよく分からなかった。
にやにやと嫌な笑みを浮かべた男はディンに指一本触れなかった。その代わりに腕を拘束した鎖を引いて、妙な窪みの出来た狭い部屋へとひとりディンを押し込んだ。
窓ひとつ無い部屋は、その窪みの為だけに存在しているようだった。壁に繋がれた鎖と、ディンひとりがちょうど座って収まる大きさのくぼみに疑問を抱く間も無かった。手足を動かすことの出来ないように固定されて、ヘルメット越しに男を睨みつけて――気付けばディンはどろどろと溢れたスライムの身体に飲み込まれていた。
男はその部屋を、媚薬風呂と呼んでいた。
性的なことに耐性も知識も無かった身体に、スライムの媚薬成分の影響は凄まじかった。わずか一日で反撃することの出来ないぐらいに蕩かされて、首から下をスライムに包まれたままディンは弱く喘ぐ羽目になっていた。いつの間にかぽってりと大きく育てられていた乳首も身体の内側から広げられた後孔も、処女のまま淫猥に熟れきっている。胎内へと侵入し腹の中を埋めたスライムたちは容赦なく排泄物を貪り、代わりにじんと身体のそこが熱くなるような体液を浸透させていった。男が要した半月はその準備のためでもあったのかもしれなかった。
強い刺激が与えられないまま敏感に育てられた身体は、あの甘ったるいにおいを嗅いだだけで発情するように躾られたようだった。べとべとと手首に巻きつこうとするスライムに必死に首を横に振る。弱々しい拒絶なんて自分らしくないと分かっているはずなのに、快感を知らないまま熟れた身体が勝手にディンに膝を折らせていた。
手をついて後ずさる身体にどろどろとしたスライムが躙り寄る。染められた蛍光ピンクと透明の身体が背伸びをするように大きくなった。頭上に伸びた塊に、膝を着いたまま顔を上げる。どうにか抜け出そうと引く腕はびくともせず、まとわりつく液体に強く締め付けられるだけだった。
「っ、――――!」
痺れの走る手足では碌に抵抗することも出来ず、身体に覆いかぶさった塊に呻きながら藻掻く。ディンが唸る度に頭上で笑い声が湧いた。
上に伸し掛るスライムに押し潰されそうになって、仰向けに寝そべった体勢でなんとか肘をつく。そのまま後ずさろうとして、太腿の辺りを掴まれて息を詰めた。ずる、とインナーの上を冷えた塊が滑る。スライムの触れたところから溶けていく服を、ディンはただ押さえつけられて見ていることしか出来なかった。
溶けて消えた服のあったところにどろどろとした塊が触れる。ぬらついたスライムはベスカーまでは溶かすことは出来ないようだった。素肌に触れたアーマーの下に、冷たい塊が滑り込む。火照った身体を刺激されて、引き結んでいた唇から細い息が漏れた。
今や闘技場と観客席とを区切る膜の下はすっかり甘ったるいにおいに満たされていた。ぐずぐずと頭を蕩けさせるようなにおいに、どうにか意識を保とうと唇を噛む。血の滲んだ痛みすらきもちよくてじんと頭の芯が痺れた。内側からアーマーに擦れた乳首が刺激を欲しがっている。スライムの這った後孔が、中に欲しいとねだるようにひくついていた。
アーマーとヘルメット、それから電流の走る首輪以外なにも身に纏うもののなくなった身体を床に押し付けられる。ぼんやりと頭上の光を眺めて、ディンは押さえつけられた両手にきつく力を込めた。笑い声の下に素肌が晒されていることが屈辱的で顔が歪む。アーマーの下を這い、ディンの首へと触れたスライムは、藻掻く手足にも向けられた殺意にも怯むことなくそのまま口へと粘液状の身体を突っ込んだ。
「ン、ぅ゛…………っ、ぐ、……、」
唇を割り開いた塊が舌を押さえつける。頬を嬲り、上顎を埋めたスライムは、そのまま強制的に喉を開かせるとどろどろと甘ったるい液体を流し込んだ。
無理に押し込まれた液体が逆流し、鼻から溢れる。息苦しさに跳ねた身体を大きな塊が押さえ込んだ。びくびくと痙攣する脚に、膜の向こうで湧く声が聞こえる。薄暗い照明がぼんやりとディンの意識の端で光っていた。
「っ、ぐ…………ンン゛、」
呻いたはずの声に甘えたような音が乗っていたような気がして眉を寄せる。ずる、と喉の奥から先端を引き抜いたスライムは、ディンの腹の中に媚薬のような液体を流し込んで満足したようだった。
ふ、ふ、と息を繰り返しながら、身体の上に伸し掛ったスライムの冷たさに意識を向ける。そうでもしなければ燃えるような欲求に耐えられそうになかった。
叫び出してしまいそうな、一種の拷問のようなもどかしさに身を捩る。服を溶かされ、露わになった性器が勝手に反り返っていた。フーッ、フーッ、となんとか息をして指を握り込む。スライムの身体の半分は透明のままらしかったから、ディンの身体に伸し掛る塊の向こうには火照った身体もみっともなく勃起した性器もすっかり晒されてしまっていた。
太腿に張り付くアーマーの冷たさを意識しながらきつく目を閉じる。このままどうにかやり過ごすことができれば、と深呼吸をして、湧いた声にはっと目を開いた。
快感を求めるように、勝手にかくかくとスライムに押し付けてしまっていた腰に一気に顔が熱くなる。大きく開いた脚と反らした腰は滑稽に見えたらしかった。くぐもったいくつもの笑い声にギリギリと手を握り込む。「ふ、ぅ゛、……っ!」と漏れた声にまた歓声が聞こえた。
どうにか振るのをやめた腰は、スライムにとって不服だったらしかった。ディンの身体を飲み込むように覆っていた塊がどろどろと蠢く。冷たい塊が腹や性器の上から引いて行ったのに安堵する間もなく、はっきりとした意識を持ったようなスライムはディンの太腿を包み込み始めた。
「やめ、…………っ!」
ぐ、と持ち上げられた脚が大きく開かれる。分裂した塊によって両手首を床に縫い留められ、持ち上げられた膝を胸のそばへと寄せられて、ディンの尻はすっかり観客席の方へと掲げられてしまっていた。
制止しようとした声が嬌声になってしまいそうで唇を噛む。挿入されたこともないのにすっかり開発されきった孔は、早く犯してほしいとねだるように、くぱ、と開いていた。
屈辱に震えた息を吐く。怒りのままに藻掻こうとして、動くことの出来なかった身体がぴくぴくと腹筋を痙攣させた。
ディンの尻を這ったスライムが孔のふちに触れる。「ぁ、」と零れた声への嫌悪に顔が歪んだ。悪態を吐いた瞬間にとろりと冷たいものが孔の中に流れ込む。ディンの腹の中を開発し尽くしたスライムは、己の身体が組み敷いたいきものがどうすれば従順になるのかよく知っているようだった。
「ひ、……っ、んん゛、……っ」
ふっくらと火照った後孔に、透明のスライムが流れ込んでいく。監禁されている間に丁寧に磨かれた孔は、排泄物のひとつもなくねだるような内壁を晒していた。欲を求めることだけを教え込まれた孔が観客席にさらけ出される。ずるずると孔を這った透明のスライムは、締め付けて蠢く内壁を拓ききるとぴたりと動きを止めた。
「ふ、ぅ゛…………っ、…………?」
荒い呼吸を繰り返して、ヘルメット越しに濡れた目でスライムを睨みつける。腹を曲げるように掲げられた尻は組み敷かれたディンからもよく見えた。自分の尻にグロテスクな塊が突き立てられている。ぬらぬらと照明に光ったスライムは、大きく開いた孔を観客席に見せびらかすと唐突に動き始めた。
「ぁ、ぁ゛っ〜〜〜〜〜〜!?♡」
ぢゅ、と内壁を内側から吸われてびくびくと身体が跳ねる。強い快感がディンの視界を明滅させていた。腸内の掃除をされたことはあれど、こんなにも強烈な、暴力的なきもちよさは知らない。強く吸われた内壁は喜ぶようにうねって透明のスライムを締め付けていた。
「やめ、っ♡ぁ゛っ、……!っ、そこ、すいつく、な、ぁ、っ♡」
とろとろ蕩けたような自分の声がヘルメットの内側に響く。唸ったはずの音はただの嬌声に変わっていた。じゅるじゅると腹の中を吸われて背が跳ねる。涙だか涎だか分からないものが顔を汚していた。
蹴り飛ばそうとした脚を包み込まれて、どろどろと撫でられながら腹の中を這いずられる。藻掻こうとすればするほどスライムは孔を強く擦った。ぐぽ、ぐぼ、と濡れた音が響く。硬いものを挿入された訳でもないのに受け入れることを教え込まれた孔が収縮していた。
「ふ、ぅ゛、〜〜〜〜っ、♡やめ゛、っ、この……っ、ぅ゛、ころす、っ……っ、ぅぁ゛っ、♡」
ぐぽ、ぐちゅ、と脳を蕩けさせる液体が腹の奥へと放たれる。
快感に震えた身体が悔しくて、ディンは真っ赤になった視界でひたすらに仕留め方ばかりを考えていた。
雇い主はひとり。護衛が何人か。このにおいと首輪さえ無ければ不可能なことではない。武器は無くとも絞め殺してやることは可能であるはずだった。
「ぁあ゛ッ!っ、〜〜〜〜ぁ、ぐ……っ、♡」
快感に負けてさえいなければ。
ずるずると腹の上を這ったスライムが、素肌に擦り付けられていた胸当ての下へと潜り込む。ずる、と押し退けられて露わになった胸に歓声が大きくなった。開発されきった胸に唇を噛む。ぽってりと腫れた乳首は、快感に喜ぶようにつんと尖って上を向いていた。
胸を包んだスライムがきゅうと乳首を締め付ける。フーッ♡、フーッ♡、と息を零して、ディンは暴力的な快感の波に耐えていた。肌の上に落ちた液体すらきもちいい。太腿にくい込んだアーマーが腰を揺らめかせた。首を振る度に後頭部でヘルメットが押し付けられる。顔を晒してはいないことだけがディンに正気を保たせていた。
湧いた観客席の声が聞こえる。
膜の向こうで、司会らしき声が何か言ったようだった。
これ以上何かあるのかと胸の内で唸る。実際に零れた声は嬌声にしかならなかった。
ざわざわとざわめく音と共に、膜の向こうに薄らと見えていた影が動く。移動している気配を感じてほんの少し力を抜いた。ショーは終わりなのかもしれない。あの媚薬風呂だとかいう部屋に戻されたくはなかったが、少なくとも今よりはマシな状況になりそうだった。
小さな音がして、闘技場の壁が動く。スライムが入ってきた辺りの壁にいくつもの人影が見えた。随分都合が良いとヘルメットの下で片眉を上げる。快感に蕩けきった身体でも、人であるならば殺せそうだった。
「ぁ゛っ、!?」
「随分気にいられたようだなあ」
クリアに聞こえた声と、いくつもの笑い声に意識を向ける余裕はなかった。
突然動き始めたスライムが腹の奥で蠢く。ディンを囲んだ男たちに見せつけるように脚や孔を開かせたスライムは、そのままずんと重量を増してディンの身体を押し潰した。
苦しさに呻きながら男たちを睨みつける。なにがおかしいのか、男たちはにやにやと笑って結合部を見下ろしていた。
「っ、?っ、く…………っ、ぁ゛っ♡なん、だ、っ、ぁあ゛っ〜〜〜!♡」
ぐぽ、と腹の奥に潜り込んだスライムが、身体を膨らませる。じゅぽじゅぽと繰り返し内壁を押し広げられて、目を見開いている間になにかどろどろとしたものが注ぎ込まれた。
「お前に子を孕ませたかったらしい。良かったな、マンドー」
「っ、は、……?らに、を、……っ、はらま、……?」
「この種族は分裂体を産み付けることで増殖しているらしい。お前の腹の中には彼の子が産み付けられている。感じるか?腹の中で脈動でも?」
「はは、分裂体だからそんなものは無いでしょう。せいぜい腹が膨れるぐらいで」
チカチカと明滅する視界の中で、どっと声を上げた男たちの顔が歪んで笑う。上手くかたちを結べない思考の中で、ディンはようやく自分の身体がどうなっているのかを理解して短く息を詰めた。
ずる、とスライムが這い出していく。
どろどろとしたものの流し込まれた腹は大きく膨れていた。
ディンの腹を撫でたスライムが、するすると首や喉元をくすぐる。撫で上げられた顎の下がきもちよくて身体が震えた。首輪の上を這い、鎖骨に垂れたピンクの塊が鳩尾をなぞる。臍の上で蠢いた塊に身体を震わせると、男たちの嘲笑の声が降った。
「つがいだと思っているらしい」
「良かったなあ、マンドー」
男の短い合図に、蠢いていたスライムが身体を引く。壁の方へと逃げて身を縮めたのはそう教え込まれているからなのかもしれなかった。
開放された身体が床に投げ出される。いつの間にか吐精していたらしく、未だ反ったままの性器の周りが白いもので汚れていた。びくびくと痙攣する太腿を蹴られて、「っ、ぐ、……♡」と声が漏れる。甘えたような吐息に笑う声が聞こえた。
頭の中で反響するような不快な声に顔を顰めながら、ふと身体を包んでいたあまったるいにおいが消えていることに気が付いて息を吐く。ゆっくりと、気付かれないように吸って、満たされていた空気が変わっていることを確信して指を握り込んだ。
頭上では男たちが誰から挿れるかと話している。くだらない言い争いは上手くディンから意識を逸らしてくれていた。
自分を囲む影の中で、どの男から始末すれば脱出することができるのかを計算して目を細める。
一番近くに立っている男がブラスターを持っていることに気が付いて、タイミングを見計らい――どん、と聞こえた爆発音に反射的に身体を起こした。
「なん、――――!」
狼狽えた男に掴みかかり、よろめいた身体に伸し掛って太腿で首を締め上げる。意識を失ったのを確認してからブラスターを奪い取った。動揺しているらしい男たちに一発ずつ穴を開ける。一人逃げた男に眉を寄せてよろめきながら立ち上がった。
悲鳴をあげながら逃げ、めちゃくちゃにブラスターを撃って壁際に立った男は、依頼だと偽ってディンを呼び出した男だった。忌々しげに舌打ちをした男が小さな機械を掲げる。止めるよりも先に押されたスイッチは、首に巻かれたままの首輪のものだった。
「っ、…………!」
強く走った痛みに息を詰める。快感に組み替えられた痛みは、がくがくとディンの脚を震わせていた。
膝をついてしまいそうになりながら、膨れた腹を庇ってブラスターを持った腕を向ける。ヘラヘラと笑った男は首輪さえあれば負けることは無いと思っているようだった。
「残念だったなあ……お迎えはここまでこない。また別のところで飼ってやるよ」
笑った男が、もう一度スイッチを押す。
電流に耐えようと奥歯を噛んで、訪れない衝撃に眉を顰めた。
「……は?効かない?ど、どうして、」
焦ったような男が何度もスイッチを押す。赤いランプは確かに信号が送られていることを示していた。
一体何が、と首元に手をやって、どろ、と垂れた液体に瞬く。ピンクと透明が斑になった塊は、スライムが最後に残していった温情なのかもしれなかった。
「くそ、こうなったら……!」
逃げようとした男の後ろ姿にブラスターを向ける。
いやに呆気ない音がして、ひとり逃げ出そうとしていた男は簡単に倒れた。
ふ、ふ、と息を繰り返して座り込む。不本意な熱を持たされた身体はすっかり疲れ切っていた。
あちこちから聞こえる爆発音に耳を傾けながら自分の身体に視線を落とす。流石にこのままではいられないと傍らの動かない身体を見下ろした。
のろのろと動き、剥ぎ取った服を着て、大きく息を吐き出す。動こうとした拍子に服が擦れて「んっ♡」と声が漏れた。
何だこの声は、と唇を引き結ぶ。もう一度息を吐き出して、膨らんだままの腹を撫でてよろよろと歩き始めた。
闘技場を出る直前に、溶けた液体のようなものが広がっているのに気が付いて足を止める。
あのスライムがいたところには濡れた地面と萎びた塊が転がっているだけだった。
生物である以上臓器か核のような部分があるのだろう。息絶えたスライムは後者であった可能性が高い。逃げようとした男がめちゃくちゃに撃っていたから、その中のひとつが偶然当たってしまったか――あるいは、孕ませることによって役割を果たしたと見なされる種族なのかもしれなかった。
あんな目に合わせた本体だとはいえ、最期に首輪からディンを守ったのもスライムだった。
濡れた地面を見下ろして眉を寄せる。
どうすれば良いのか分からなくなってしまいながら、ディンは熟れた身体と孕んだように産み付けられた腹を抱えてのろのろと外に向かった。
一先ず、未体験のまま快感に弱すぎる身体になってしまったことだけはどうにかしなければならなかった。
